【04/07/01】



君はそうして嘘をつくんだな。

あのまっすぐな目でそう云われると、私はもう、なにも云えなくなってしまう。
私は君のようには生きられない。なにしろこうして闇を纏っているかぎり、私は夜の眷族だ。その安息など知りようもあるまい。細胞の原形質まで太陽光の申し子のような君には。
苦痛ではないのかだと。わかりきったことを。 ──── わかりきったことを。

不意に岩窟の照明が白く灼けた。

闇を塗りかえる強引な侵蝕。眩しさに手を翳すと入口にアルフレッドが立っている。
「…明かりくらい点けていらっしゃったら如何です」
たとえその装束で居られるとしても。とまでは云わない男だ。夜も随分更けたというのに相変わらず律儀な執事の恰好で、彼は多分、少し怒っているのだ。
「それから。寝室にお持ちしたココアが冷めてしまいますよ」
「 ──── すまない。シャワーを浴びたら行くよ」
背凭れに沈めていた体を起こして、スーツを緩めながら、何でもない風を装ってみる。彼は気づいているだろう。いつだって私のことなどたやすく見透かしてしまうのだから。
アルフレッドは声も表情もまったく変えず、私に狙いを定めた。
「お留守の間にケント様からお電話がございました」
屋敷にまで電話をかけてくるようなミスター・ケントは一人しかいない。

──── ケント。クラーク・ケント。

その名前は、アルフレッドの見えない銃弾は、完全防弾の特殊スーツもバターのように貫いてしまう。
まったく厄介な奴だ。私が彼の本当の名を知っているように、彼が私の夜の不在を知らないわけがない。電話があった、という事実だけが私の耳に入ることを予測していて、しかもそれはこんなにも的を得ている。本当に、厄介な男だ。
私は手を休めてアルフレッドを見た。アルフレッドは少し間を置いて、一言添えた。
「折り返しのお電話は必要ないと仰っておられました」

わかった、と声に出して応えたかどうかは覚えていない。
スーツを脱いだ裸の胸は血まみれだったかもしれない。光は嫌いだ。部屋は暗い方がいい。




まだイマイチ視点が定まってなかった頃の突発SS。「わたし」を「私」に書き換えました。



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